株芝居を見よう!!
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第1編 大きくなるカブ



 かしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは市場へ買い出しに、おばあさんは風呂へ命の洗濯に行きました。
市場に着いたおじいさんは、ひときわ賑わっているお店に目が留まりました。なんだろう。おもしろいものでも売ってるのかな。気になったおじいさん。ちょっと覗いてみることにしました。
「よってらっしゃいみてらっしゃい。不思議なカブはいらんかね」
そこは一風変わった八百屋さんでした。
「見たところ、タダのカブだね。一体、これのどこが不思議なんだい?」
お客さんのひとりが尋ねました。
「確かにパッと見はタダのカブだ。ところがこいつをひとたび植えればあら不思議。陽の光を浴びるだけで、みるみる大きくなっていく。」
そいつはすごい。お客さんたちは驚きました。
「でも気をつけないといけないよ。雨にさらせば、今度は小さくなっちまう。大きくなったり小さくなったり。引っこ抜いたらハイおしまい。二度と大きさは変わらない。どうだい不思議なカブだろう?さぁさ、おひとついらんかね?」
おもしろいな、と思いました。おじいさんは、このカブがだんだん欲しくなってきました。
「でも、お高いんでしょう?」
おじいさんは聞いてみました。
「いちおくまんえんだよ」
高いな、と思いました。でも、それでもおじいさんは買うことにしました。カブを大きくしてから売り払えば、いちおくまんえんぐらいは、あっという間に取り返せる。そう考えたからです。
「まいどあり。うまくいくといいね」
おじいさんは不思議なカブを手に、市場をあとにしました。

 に帰ると、おばあさんが出迎えてくれました。
「じじぃ。おかえり」
おばあさんはほっこりしていました。
「ただいま。今日はおもしろいものを見つけたよ」
おじいさんは不思議なカブを見せて、市場であったことを話しました。するとおばあさんも興味津々。はやく植えてみようと急かしました。
「あわてないあわてない。このカブは日和が大事。まずは予報を見てみよう」
そう言うとテレビをつけるおじいさん。ちょうど天気予報の真っ最中でした。どうやら向こう一週間は晴れっぱなしのようです。
とは言っても時は紀元前。天気予報なんて占いみたいなもので、アタったりハズれたり。あんまり当てにはなりません
でも、その日の予報は一味違いました。ハヤミが担当だったのです。ハヤミというのは、最近よくアタると評判の予報士で、みんなからは“風神”の愛称で慕われていました。
「私は徹底的に晴れスタンス。大丈夫。理屈抜きに信じなさい。」
ハヤミの力強い言葉に、おじいさんもなんだかいけそうな気がしてきました。
「風神ハヤミの言うことなら間違いはない。さっそく植えてみるとしよう」
おじいさんは庭の畑にカブを植えました。さて、どうなってしまうのでしょうか。

 1日目。とてもきれいな青空です。
カブは少し大きくなりました。
「本当にでっかくなっちゃった!」
おばあさんは驚きました。おじいさんも嬉しそうでした。

 2日目。今日も晴れました。
カブはまた大きくなりました。
おじいさんは、にやにやし始めました。

 ころが3日目。空は曇ってしまいました。
カブは大きくも小さくもなりませんでした。
おじいさんは、真顔に戻りました。

 4日目。とうとう雨が降り出しました。
カブは小さくなりました。
「風神ハヤミに間違いはない。たまたまじゃ」
おじいさんは、いいことだけ考えるようにしました。

 5日目。昨日より強い雨が降りました。
カブは植えた頃よりも小さくなってしまいました。
「風神ハヤミに間違いはない。たまたまじゃ」
おじいさんは、昨日と同じことを言いました。

 れから一週間、雨は降り続けました。カブは小さくなりすぎて、とうとう見えなくなってしまいました。
「あ……そーゆーこともあるんだ」
おばあさんはつぶやきました。
「それでも風神なら……」
おじいさんも何かつぶやいていましたが、よく聞こえませんでした。

 ーするに、ハヤミの予報は大ハズレでした。大丈夫だというから信じたのに。おじいさんは、カブを返してほしいと思いました。
でも残念なことに、たとえ大ハズレをぶっこいても、予報士にオトガメはナシなのです。ハヤミはあれからもテレビに出続けましたが、ここ一週間降り続いた大雨のことは、一切話題に出しませんでした。
くやしい思いをしたおじいさん。でも、大きなカブを育てたいという思いを、諦めることはできませんでした。
「失敗しても誰のせいにもできない。今度は自分の考えでやってみよう」
おじいさんは、もういっかい市場へと出かけました。

 れからというもの、おじいさんは幾度となく挑戦を繰り返しました。
上手くいくこともありましたが、いかないこともいっぱいありました。
カブを植えたとたん、雨が降り出したりしました。
カブを引っこ抜いたとたん、晴れ出したりもしました。
ストレスで禿げそうになりました。でも、それでもおじいさんは他人のせいにはしませんでした。全部自分で考えたからです。
考えて、試して、間違えて、また考えて、また試して。
そうしているうちに、少しずつ自信を持つようになっていきました。

 じいさんの生え際が5ミリほど後退したある時、そのビッグウェーヴは訪れました。ここ1週間ほど、ずっと大雨が降り続いていたのです。おじいさんは、この雨は明日にも止み、一転して日本晴れが続くと読んでいました。乗るしかない。そう思いました。
ところが、ふとテレビに目をやると、あのハヤミが出てきてこう言うのです。
「穀物市場に暗雲が立ち込め、不穏なムードになっている。大飢饉の再来の可能性が高くなってきた。」
ハヤミの読みは、おじいさんと真逆でした。
「どうするの?じじぃ」
おばあさんは尋ねました。
「彼の言うことも一理あると認めた上で、それでもわしはわしの考えを信じ、カブを植えよう。そうするならば、どんな結果になっても受け入れることができる。責任を持つことができる。じゃが、仮に今わしが信念を曲げ、安易に他人の言葉に流され、挙句悪い目でも引こうものなら、また後悔だけが残ってしまう。それだけは避けなければならんのだ。きっとな」
イケメン気味のおじいさんは続けました。
「なぁに、間違ったと感じたらすぐに引っこ抜くさ。心配するな、ばあさん」
「へぇ?なんか言った?まぁいいからはよ食べよ。片付かんし」
振り向くと、おばあさんは食事中でした。促されたおじいさんもご飯を食べ、その日はいつもより早く床につきました。
翌朝、まだ空が薄暗い中、おじいさんはカブを植えました。

 れから1万年と2千年ほど経ったでしょうか、雨は一滴も降りませんでした。陽の光を浴び続けたカブは、今ではもう地球よりも大きく育っていました。
「も……もう十分じゃ。引っこ抜こう」
おじいさんは、努力が実った、というよりも、幸運をつかんだ、というような表情でした。しかし、ここで最後の誤算がありました。カブが大きすぎて引っこ抜けないのです。
「あ……そーゆーこともあるんだ」
おばあさんはつぶやきました。と同時に、家に何か取りに入りました。
「言い伝えによれば、これほどの作物はヒト3人、獣3匹ほどの力をもってようやっと収穫されたという。しかし、今回の獲物は言い伝えのそれよりもはるかに…………」
おじいさんも何かつぶやいていましたが、よく聞こえませんでした。
ややあって、おばあさんが持ち出したのは、伝家の珍刀、ムネマサでした。おばあさんは、とても長いそれを両手でしっかりと握り締め、カブの前で構えました。
「えいやっ!!」

おばあさんは、カブの根っこめがけて大きく振り抜きました。すると、なんということでしょう。カブをきれいに刈り取ってしまったのです。速すぎて見えませんでしたが。
「おっかないばあさんと連れ合ったもんじゃ」
おじいさんはつぶやきました。今度はおばあさんの耳にも届いていました。

 の日、おじいさんとおばあさんは巨大なカブを売りに市場へ行きました。
2人はゲス顔が止まりませんでした。
「本当に大きなカブだね。でも大きすぎて、逆にどうしていいかわからないよ」
市場の人は言いました。いやな気配が立ち込めました。
「そうだね。いちおくまんいちえんなら買い取ろう」
2人は真顔に戻りましたとさ。めでたしめでたし。