株芝居を見よう!!
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第2編 大きくなるカブ 外伝



 敗しても誰のせいにもできない。
カブは自己責任だと、その身をもって思い知ったおじいさん。支払った授業料は決して安くはなかったですが、それでもカブで成功したいという思いを、諦めることはできませんでした。さて、その後おじいさんはとりあえずの成功を収めるわけですが、そこへ至るまでは、実はそこそこの時間が費やされていたのです。今度は自分の考えでやってみよう。この噺は、その試行錯誤の過程でございます。


 ブを育てきるためには、天気を予想できなくてはならない。そう考えたおじいさんは、まず気象予報士の資格を取ることにしました。

 とは言っても、くどいようですが、紀元前の当時にあって、気象予報なんて占いみたいなもので、アタったりハズレたりでしたが、それでも最難関国家資格のひとつであることには変わりありませんでした。しかし、おじいさんはI.Q.がいちおくまんはあったので、必要なカリキュラムを2秒ほどで修め、2日後には見事資格を取得し、さらにその2日後には、ウェザーマン・オブ・ザ・イヤーに輝くなど、もはや気象予報の知識では右に出る者がないほどにまでなったのでした。機は熟した。そう思ったおじいさんは、さっそくカブに再挑戦したのです。


 て、どうせやるなら大勝ちが欲しいところ。そして大勝ちのためには息の長い晴天が必要。というわけで、おじいさんは梅雨明けを狙って、カブを仕掛けることにしました。

 他の予報士たちがばらばらと梅雨明けを予想していくなか、「トーシロが……」とつぶやきながら機をうかがうおじいさん。そしてとうとうその時がやってきたのです。
「なんかいろいろ条件がそろった。間違いない。梅雨明けじゃ。」
自信満々にカブをぶっさしていくおじいさん。さて、どうなってしまうのでしょうか?


 ェザーマン・オブ・ザ・イヤーが梅雨明けを宣言した翌日、それまで空を覆っていた暗雲が嘘のように晴れ渡り、日本中が陽の光に包まれました。当然、カブも順調に育っていきました。

 しかし、3日ほど経ったある日、突然ものすごい勢いの雨が降り出したのです。
「おっとぉ!?」
煽ってくるおばあさんに対し、
「これは最近流行りのゲリラ豪雨というヤツじゃ。勢いこそ強烈じゃが、そう長くは続かんじゃろう。」
とニワカ知識で返すおじいさん。
確かにゲリラ豪雨は散発的なものでした。しかし一撃の威力がケタ違いだったため、カブがせっかく大きくなっても、すぐに元の大きさまで戻ってしまうのです。
「ゆーても梅雨は明けとるんじゃ。長い目で見りゃホールド有利じゃろう。」
と楽観視するおじいさん。しかしそこへ、あわてた様子のおばあさんが、
「じじぃ!これはさすがにヤベーっしょ!?」
と、超絶悪材料をひっ提げてやってきました。台風が発生したのです。

 どっか南西の海上らへんに発生したこの台風。ゆうても、幸いおじいさんちとは反対の方向を向いていました。
「ふむ、大丈夫じゃ。この進路なら、ウチに来る心配はない」
「へ、ホント?」

 ところがその翌日、台風はいやがらせかというほど急激に進路を変え、おじいさんの家に向かってきました。天気も次第に悪くなり、だいぶ雨の日が多くなってきました。
「い…や……この程度の勢いなら途中で消滅する……かな」
「へぇ?ホントぉ!?」
「たぶん……」

 希望的観測もむなしく、台風はより勢いを増しておじいさんの家に直撃しました。ただでさえ長い風雨にさらされたカブは、これにトドメを刺されたかのように、もうかなり小さくなっていました。
「じじぃ、これどうする?」
「……目。そうじゃ、目じゃ!台風の目にさしかかれば、カブもいくぶん回復するはず。それを待とう!!」
「へぇ、ホント……。」
おじいさんはこうは言ったものの、なんか恐らくそうはならないだろうという思いもありました。でも、ここまで大きくヤラレてしまった今、なんかもうどっちでもよくなっていたのです。
そして皮肉なことに、悪い予感ばかりよく当たるもので、台風は、その目をおじいさんちの上空にあらわすことはなく、むしろ右半円でえぐるようにして、通過して行ったのです。


 うして勝てないんだろう。 つぶやきつつ、おじいさんはハッとしました。
「いや、勝てなかったわけじゃない。ハヤミのときだって、今回だって、最初は順調に育っていたじゃないか。失敗したのは、せっかく育ったカブを、再び小さくなるまでほったらかしとったからじゃ。そうじゃ。大きいうちに引っこ抜こう。カブが少しでも大きくなったら、すぐに引っこ抜いてしまおう。」
こうなれば予想するのも簡単です。カブが少しでも大きくなりさえすればいい、つまり、翌日が晴れさえすればよいわけですから。ウェザーマン・オブ・ザ・イヤーには、わけないことでしょう。
気を取り直したおじいさん。さっそくこの作戦を、“不思議なカブ:体験版(10,000円)”を使って試してみることにしました。

 1戦目。カブを植えました。次の日は晴れでした。おじいさんはカブを引っこ抜き、市場へ売りに行きました。10,002円で売れました。

 2戦目。カブを植えました。次の日は曇りでしたが、その次の日が晴れでした。おじいさんはカブを引っこ抜き、市場へ売りに行きました。10,002円売れました。

 3戦目。カブを植えました。次の日、午前中は小雨が降りましたが、午後からは快晴だったので、カブは一度は小さくなったものの、再び元に戻り、そのまま少しだけ大きくなりました。おじいさんはカブを引っこ抜き、市場へ売りに行きました。10,001円で売れました。

 ところが4戦目。必ず晴れると読んでカブを植えた翌日、しかし太陽は姿を現しませんでした。それどころか、その日を境に、ずっと土砂降りの雨が降り続けたのです。カブは一度も大きくなることがなかったため、おじいさんは引っこ抜くに引っこ抜けず、そうこうしているうちに豆粒ほどのサイズにまで小さくなってしまいました。おじいさんは、なんかもう考えるのをやめ、カブを引っこ抜いて市場へ売りに行きましたが、ついた値段は500円でした。


うして勝てないんだろう。
あんなに勉強したのに、こんなに努力しているのに、どれぐらい晴れが続くのか、いつから雨が降り出すのか、いつ植えたらいいのか、いつ引っこ抜いたらいいのか。もうわかりそうなものだが、事実まったくわかっていない。考えることが多すぎて、おじいさんの心が、いよいよ折れそうになった、そのときでした。
「ただいまぁっ!おっ?じじぃ、今度はどーだったの?」
おばあさんが老人会の小旅行から帰って来たのです。
「あぁ、ダメじゃった。いや、途中まではよかったんじゃが……いや、そうでもなかったのか……」
「そっか……」
言いつつおばあさんが荷物を床に置く、まさにその瞬間、ふたりは同時につぶやいたのです。




 かにおじいさんは、これまで何度か大損をぶっこいてきました。しかし、そのうち一度たりとも、負けを認めた覚えがなかったのです。
これはなんとも不思議な話です。勝てば儲かり、負ければ損するカブの栽培において、大損をぶっこいといてなお、負けた覚えがないとは。
しかしそれもそのはず。カブの勝ち負けとは、植えた本人が自分で定めなければならず、あらかじめ決まっているものではないのです。

例えば野球は、9回の攻防を終えた後、より多くの得点を上げたチームの勝ちです。
例えばゴルフは、18ホールを終えて、より少ないスコアで回れたプレイヤーの勝ちです。
しかしカブには、その勝敗を決するにあたり、それほど明確なルールが、実はありません。
カブが大きくなっただけでは、まだ勝ちじゃありません。満足して引っこ抜いたとき、はじめて勝ちが決まります。
カブが小さくなっただけでは、まだ負けじゃありません。諦めて引っこ抜いたとき、はじめて負けが決まります。
どうなったら満足するか、どうなったら諦めるか、どうなったら勝ちとするか、どうなったら負けを認めるのか。
本来、勝負事にあらかじめ定まっていて当たり前なはずのそういったルールは、しかしこの場合、カブを植えた本人が自ら決めなければならないのです。

 おじいさんは、勝利条件を決めたことなら、何度かありました。しかし、敗北条件を決めたことは、一度もありませんでした。
であれば、それらの勝負に敗北はあり得ません、なぜなら、どう転んでも、もう負けを認めることがあり得ないからです。
しかし、負けを認めると認めないとにかかわらず、カブは小さくもなれば、消え去りもします。おじいさんが負けずして、それでも大損をぶっこいたのは、あまりにも取り返しがつかなくなり、考えるの投げ出したからでした。負けないことが、もっと大きな負けにつながったのです。
「どう負ければいいんだろう?」
おじいさんは、考えを改めました。
知識は活かす。予想も立てる。しかしそれでも、ハズレるときはハズレる。しかも稀にではなく、割としょっちゅうハズレる。だから、自分の予想がハズレたとき、それが致命傷へとつながる前に、負けを認めよう。
カブが、そのとき例え小さくなっていたとしても、勇気を出して引っこ抜こう。それはどこだろう。どこで負けを認めたらいいんだろう。そんなふうに、考えるようになったのです。


さて、再び試行錯誤を繰り返したおじいさん。それからしばらくして、取り敢えずのビッグウェーブに乗ることができたわけですが、それはまた、別のお噺。